むかーしむかし。
おとぎ話の国を旅した頃に聞いた話。
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ある村の漁師が普段より早く海から上がってきたようだ。
いつも日が昇る前から海に出て、本来なら昼頃まで戻らない船が、この日は約半分の時間で揚げられているのである。
「なんだ、今日は調子でも悪いのか?」
漁師に聞く
漁師「いいや、その逆さ。今日は大漁だよ。いつもの量が早く獲れたから戻ってきたのさ。」
「大漁の日に早く帰って来る馬鹿がいるもんか。何か急用でもあるのかい。」
漁師「いいや、何もないよ。早く家に帰って子供たちと一緒に過ごし、奥さんとシエスタするだけだ。」
「何を呑気な事を言ってるんだ。君はいつもと同じ時間まで漁を続けるべきだったよ。そうすればいつもの倍のお金になった。」
漁師「それで?」
「多く入ったお金で、新しい網を買うべきだ」
漁師「それで?」
「もっと効率的に魚が取れるようになる」
漁師「それで?」
「収入はどんどん増える。人も余分に雇えるようになるだろう」
漁師「それで?」
「どんどん従業員が増えて、いずれ君は働かなくて良くなる。そうすれば子供や奥さんと好きなように過ごすことが出来るんだよ」
漁師「…」
「どうだ。夢のようだろう」
漁師「なんだ。それならと変わらないな。」
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確かこんな話。
詳細は忘れたが、こんな展開だったと思う。
聞いた当時は「良くできた落語みたいな話だな」と感心したものだ。
しかし今はどうだろう。
漁師のような生活を夢見ていたはずなのに、なんとなくもうひとりの方みたいに過ごしてしまっているかも。