関東平野の果てブログ

20代はじめに関東平野の果てに隠居し、楽でラフな生活を模索する30代です。

ヤギのチーズ6

翌朝。たっぷりと雨が降り続いている。

 

雨音で寝不足だけれども、いつまでもテントを広げていられない。撤収していると、家から持って来た雑穀米のおにぎりがあるのを思い出した。うまいかまずいか解らないけどペロっと食った。

さて、帰ろう。写真後方に見えるクッサい濡れた靴下は昨日履いたもの。

今日はこれを再度履いて帰らなければならない。

 

不幸である。

 

 

 

帰り道、覚悟はしていたがやっぱり雨。苦痛。

どれくらいかというと、ゴーグル無しで荒波の海を泳いでいるようなものかな。

顔に当たる雨粒は痛く、目も満足に開けられない。波のように押し寄せる重い風邪はバイクをふらつかせ、同時に身体の先の方から体温を奪う。

 
いつもならひと息で進む距離も永遠のように感じられ、我慢、我慢のライディング。

 


ようやく家につくと、濡れたテント類を最低限だけ広げ乾かし、あとは風呂にザブゥンと浸かって暖かい布団にくるまる。

とてつもない安心感に包まれて『やっぱり我が家がイチバン』とくそつまらないセリフが魂の底から出る。

 

ひと眠りして起きると、夕方。

まだ大鹿村のことを考えていた。

 


なにげなく図書館に出向いて山暮らしの本を借りてきてしまった。

大鹿村の山に未練があるのかもね。

 

 
明日からまた仕事がはじまる。

2、3日もすればきっと忙しさに追われ、この本に触る気さえなくなることをわかっている。

 

だから今だけ、ベランダで本を眺め、ヤギのチーズを転がす。

長野の風は気持ちいいと思った。

 

 

ヤギのチーズ5

 


寝床は、雨予報でしたので、屋根のあるところが良いと考えました。

そんな条件を満たすキャンプ場は山の上の上の上。

 

崖の上のウシィ。

 

 

最後の民家は何キロ前だっただろうか。

 

 

 

1時間弱。登っても登っても山です。

途中誰1人ともすれ違いませんでした。

 

やがて狭い道から更に分岐して、少し広くなっているところに出ました。
そうです。ここが今夜のキャンプ地。

標高約2000mらしい。

いるのは俺だけ。

 

…ちょっと寂しい。てか怖い。

 

 

ご丁寧に熊注意の看板もあり、私の心をエグります。 

 

携帯の電波入らないから助け呼べないな。

雨強く降って土砂崩れしたら帰れないな。

てか建物の名前が避難所ってなんだよ。何から避難すんだよ。

 


今更ですが、そもそも自分は深い森に入ると四方八方から視線を感じる気がして、落ちつかない性分です。

クワガタが大好きなのに昆虫採取に行かないのもそのためです。

山にいる獣も人もオバケも怖い。

海辺なら釣りしながらいくらでも寝られるのにね。

 


でもまあ、熊にさえ出会わなければなんとか乗り切れるでしょう。今夜は肝試しだ!酔っ払っちまえば解らねぇ!と意気込んでザックからぬるいビールを取り出す。プルタブを開ける。

プッシャ〜。幸せの音。

ちょうど良い切り株に腰をかけて一口目を味わおうとする。

 

 

 

切り株の上になんかある

あれ?ウンチ!誰のかな?

鹿はチョコボールみたいなウンチのはず。

イノシシの短い足では、こんなところにウンチできないはず。

人間のものとも大分違う。

牛にも似てるけど、いるわけないやん。

とすれば、これはもう熊さんとしか思えない。
寝床からすぐそこの話です。

 


ここで自分はポッキリと心が折れて、開けた缶ビールは口をつけず、逃げるように山を下りました。心が折れる音、マジで聞こえました。

もう口が裂けても『山に篭って修行したい』なんてイキったこと言わない。

尻尾巻いて逃げる。 

 


途中、日が沈み雨が本格的に降り出した。

大鹿村の次のまちにある道の駅に止まる。雨は寒い。感覚が無い手でテントを張り、ここで一晩を過ごすことにする。

 


テントの中で夕方に買ったヤギのチーズとワインをやっと取り出せる。

 


思い返せば大鹿村には数時間しかいれなかったけど、このチーズには大鹿村がギュッと詰まっているような気がした。

半分だけ切りとり、食べてみた。 


味はラム肉のような草食動物特有の風味があり、自分好みのものだった。

今日出会ったものを思い出して、自然に対しても人に対してもありがたいと思えるような味だった。

ついつい酒が進み、ワインを一本空けて寝た。

 

残りのチーズはお土産用とした。

ヤギのチーズ4

期待していたサイケなヒッピー文化と出逢うことはできませんでしたが、お腹は減ります。

さて、晩御飯の準備しよう。

 


この夜は雨の予報なので、料理をする気がさらさらなく、調理器具は用意していません。近くのスーパーのお惣菜で済まそうと考えていました。

 


しかしこれは甘かった。

村にコンビニがないことはもちろん想定していましたが、更にスーパーマーケットすら見当たりません。

近くの商店には肉や野菜などの食材やお土産品こそあるものの、出来合いの惣菜なんて扱っていませんでした。

 
なんでも当たり前にあると疑いもしなかった私かボケていました。しょうがないので、今晩のご飯は道の駅で買うポテチと発泡酒でしょう。

 


がっかり肩を落として品定め。

 


すると、明らかに他の人とは風貌が違う人がお店に入ってきました。

きっと、彼女は自然派な人でしょう。あとから来た同じ雰囲気の若いヒゲ男と軽い挨拶を交わしていました。柔らかそうな革製のブーツが印象的です。

 

“本当にいるんだなぁ。”

有名人に出会えたような高揚感です。感激です。

 

自己表現のためのファッションヒッピーとは違う佇まいです。

それを超越しているようです。

なんというか、農耕的。彼らの姿に、妙に納得がいきました。

自己完結。いいものを自然に。たまに分かち合いっていう言葉が思い浮かびました。

 

もう少しだけ、彼らのことを知りたいと様子を伺っていると、村の特産品コーナーの中で『ヤギのチーズ』がひとつ残っていることに気づきました。

ヤギの乳で作ったチーズ。今まで食べたことがない。

なんだか無性にこのチーズを食べてみたくなって慌ててレジに急ぎました。

 


気づくと先ほどの人たちは軽トラックに乗って店を出ていきました。

 

私もチーズと信州のワインを手に入れて、店を出ます。

そろそろ日が暮れる。

次の目的地は、寝床です。

この不思議な村の山の上にあるキャンプ場です。

ヤギのチーズ3

 

大鹿村に到着したものの、アテもなく来たので何もすることはありません。

ま、自分はこんなツーリングが好きなので別にいいのですが、覗くお店では軒並み売り切れor営業時間外で断られてしまいました。

 


時間がわるいのか、ハーレーがうるさいのがわるいのか、理由は様々でしょうが歓迎されていないような気さえします。

 

考えてみれば、ここは人口1000人の村です。滅多に来ない客人をいつまでも迎えている方が疲れてしまいます。

村人みんながみんなヒッピーとは言いませんが、みなさんマイペースに過ごしているのでしょう。

 


仕方がないので道の駅内にある観光案内所で、観光場所を尋ねるついでにこんな話をきいてみました。

 


『このあたりって、昔ヒッピーとかって話ありました?』

 


『そういう自然派の人は今でもいます。こちらの方面に住んでいる場合が多いですね。』

 


ほう!興味深い!しかし、案内所の職員はこう続けました。

 


『彼らは自給自足というか、基本的に自己完結しているので、その文化を体験できるような観光的な施設はありません。お店もなければ、知り合いがいない限り、人にもあえないでしょう』

 


それはそうだ。

 

 

でもね、なんとなく教えてもらったヒントを頼りに彼らが住んでいるのではないかと思う集落を横切ってみました。

 

 

 

ここから見下ろす一帯がそうです。

 

小さい静かな農村集落です。

細い山道の先にあり、ひっそりと暮らしているようです。

点滅する信号機もうるさい看板もありません。

 


私のイメージするヒッピーとは、サイケデリックで奇抜なアートであり、それを期待していました。

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しかしここは変哲もない、むしろ普通よりも地味な田舎集落です。

 

 

 

ここでふと、昔聞いたシクラソマの話を思い出しました。

外来種として煙たがれる獰猛な魚・ティラピアも、長らくそこで暮らしていれば静かで綺麗なシクラソマの輝きを身体に帯びるという話です。

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ここに移住して来た人たちは、ここの地をただ気に入って生活を営んでいるだけなのかもしれません。

 

 

 

 

ヤギのチーズ2

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出発してからというもの、たまに陽もさして良い天気です。これからの雨が嘘のよう。

 

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山あいの田舎町を横目に南下して行きます。

こがねいろの稲穂がいい気分。

 

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さて、3時間ほど走った所の峠の頂点で、あの大鹿村の看板が見えてきました。あら、意外と近いのね。

 

 

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途中、どうしても我慢ならない渓谷発見。

 

 

 

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釣竿を持ってきていてよかった。

自分が好きなハーレー旅ブログに見習って、今日は竿を準備していました。

↑そのブログがこちら。ショベルヘッドと渓流釣りが好きなナイス・ガイの旅です。

 

 

 

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今晩のおかずに岩魚でも…と下心が伝わったのか、結果は坊主です。

このカメラ、せっかく防水機能を備えているので川の中の様子を撮影してみましょう。

うん、水が冷たい。

 

こんな感じで寄り道しながら峠を下ると、人口1000人程という大鹿村のメインストリートにやってきました。

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さて、何しようかな。

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この車止め欲しい。笑